コロナ禍の中で不必要な歯科治療を見極める【歯医者ホントの話】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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コロナ禍の中で不必要な歯科治療を見極める【歯医者ホントの話】

【最終回】斎藤先生がこっそり教える 歯医者のホント~「歯科の駆け込み寺」~

■小臼歯は抜いてはいけない

 ただし、ベテランの矯正歯科の専門医だからといっても、必ずしもお勧めできないケースもあるという。「昔、常識だったことが間違いだからです」と斎藤歯科医師は説明する。
 古い矯正歯科の専門医の診察を受けると、「小臼歯(犬歯のすぐ後ろの2本の歯、左右・上下で8本ある)を抜いて、歯をきれいに並べるスペースをつくりましょう」と言われる場合がある。間違っているやり方だと、斎藤歯科医師は強く指摘する。

「どの歯も基本的には抜くべきではないのですが、とりわけ小臼歯は抜いてはいけない歯なのです」

 斎藤歯科医師によると、日常生活のために一番大切なのが小臼歯だという。

「咀嚼をする際に、もっともよく使うのが小臼歯なのです。この歯があるおかげで、支障なく食べ物を噛むことができる。それを抜いてしまったら、さまざまな問題が起きてきます」

 歯全体の噛み合わせを中心となって担っているのが小臼歯。この歯がなくなってしまうと噛む力が弱くなり、以前のような咀嚼ができなくなってしまう。

 食べるときだけの問題ではない。小臼歯を抜くことによって、口腔内の全体のバランスも崩れてしまうのだ。前歯が後ろに下がってきたり、下あごの位置も後ろにずれてきてしまう。顎関節の不具合も起こり、あごの動きもスムーズにできなくなってしまうという。

「歯並びがかなり乱れている場合は、矯正歯科ではスペースの確保のために歯を抜かなければならない場合があります。歯医者が小臼歯を抜かせてほしいと言い出したら、患者さんには断固拒否していただきたい。それでも、どうしても抜かなければならないのであれば、小臼歯ではなく、その奥の大臼歯にしてほしいと申し出てほしいのです。正直なところ、奥歯はなくても、それほど困ることはない。もちろん、できれば抜かないに越したことはありませんが」

 近年は、矯正歯科の分野も以前に比べ、だいぶ技術が進歩している。よく勉強している矯正歯科の専門医なら、小臼歯を抜くような選択肢はとらない。

「ただし、ひとつだけ言っておきたいのは、インプラントもそうですが、この矯正も永続的なものではないということです。10代のころ、矯正を行ったという30~40代の患者さんが私のところに来ることがあり、かなり歯並びが悪くなっているケースとしばしば出会います。矯正治療のあとに親知らずが生えてきたり、口腔内の環境にさまざまな変化が起こってくるため、矯正した歯並びがそのまま保てるわけではないのです」

 斎藤歯科医師の印象では、ケースバイケースだが、矯正の寿命は20年ぐらいではないかという。やはり、矯正治療を受けても、一般歯科を受診した場合と変わらず、普段、各自が行うケアがもっとも大切なのだ。

 なお、同連載は今回が最終回。その続きは電子書籍歯医者のホントの話で読んでいただきたい。

KEYWORDS:

『歯医者のホントの話』 斎藤正人/田中幾太郎

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斎藤 正人

さいとう まさと

サイトウ歯科医院

院長

1953年東京都生まれ。神奈川歯科大学大学院卒。極力、歯を抜かずに残す治療を心がけ、「抜かない歯医者」を標榜する。一昨年9月『この歯医者がヤバい』(幻冬舎新書)を上梓。


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